先日、ちょっとセンセーショナルな見出しの記事が東洋経済オンラインに掲載されていました。カタログ通販大手のベルメゾン(千趣会)が業績不振に陥っており、Jフロントリテイリング傘下を離れて政府系投資ファンドからの増資を仰いだというものです。

千趣会は売上が対前年で2.4%減、3年連続で前年割れしています。また、2017年12月期決算では最終赤字が110億円と大きく膨らみました。
そういうこともあって、あまり目立ったシナジー効果が得られていない百貨店との協業を見直し、政府系投資ファンドのレビックと組むことにしたということのようです。
デジタル化が遅れたのが原因?
千趣会が業績不振に陥った原因として、東洋経済オンラインでは”デジタル化の流れにうまくついていけなかったこと”を挙げていますが、これは的確な指摘とは言えないでしょう。ベルメゾンはまだパソコンが普及していなかった2000年代初めからネット通販を開始し、利用者の8割がネット経由で買い物をしているわけですから、むしろネット通販の先進的企業です。
ベルメゾンは早くからネット通販に取り組んでおり、ユーザビリティーが高いのも周知の通り。アマゾンや楽天市場などと張り合って競い負けたと言える部分はあるかもしれませんが、それらのマーケットにも進出しており、決してノウハウや販路で負けていたとは言えないでしょう。
消費の「パーソナル化」と逆行?
東洋経済オンラインでは、”消費者は大量生産的なものから、よりパーソナル化したものを好むようになっており、ベルメゾンの顧客も徐々により個性的な商品が並ぶサイトか、アマゾンのような使い勝手のいいサイトへと移っていく。”と述べられています。また、”5年で商品型数は73%も増加(中略)どこにでも売っているような商品だらけになった。”などとも指摘されています。
しかし、これもベルメゾンが多様化する消費者ニーズに合わせようとしたからこそでしょう。結果的には戦術が間違っていたと言える部分もあるかもしれませんが、アマゾンなどとの差別化という点では戦略的に間違っていたとは言えません。
また、ベルメゾンの収納用品の売れ筋を見れば、むしろどこにでも売っている商品が上位を占めていることが分かります。ベルメゾンにもユニークな商品はたくさんありますし、ヒット商品もそれなりにあります。より「パーソナル化」しようとしても、「どこにでもあるような商品」が売れてしまう現状、両面戦略のようになってしまったと言うほうが正確ではないでしょうか。
商品数が無駄に多いのは事実
一方で、商品型数が膨らみすぎたというのは確かにその通りだと感じます。より正確に言うと、商品数が多いこと自体は問題ないのです。問題はむしろ、”食器棚をとっても、素材やデザイン、棚の数などが微妙に違う商品がずらりと出てくる”と指摘されている通り、それぞれの商品の特徴が分かりにくいことにあると私は考えます。
たとえば食器棚を見ると、売れ筋下位に行くほど「天然木のカップボード」、「天然木のキッチンボード」、「レンジ台」などと、商品名だけではどう違うのか分かりにくいものが多くなります。これについては私も以前から何度か指摘させていただきましたが、未だ改善されていません。
視覚的に違いが分かるようなものなら良いですが、そうでない特に食器棚のようなものの場合は、もっと一つ一つの商品が際立つようにコンセプトを打ち出す必要があるでしょう。
現状は「専門性」で打破?
実際のところ、以前に比べると私もベルメゾンのカタログを見たり、ベルメゾンネットを見ることが減りました。ベルメゾンでしか買えない商品もありますが、結局のところアマゾンや楽天市場で探したほうが便利だし色んな商品があるからでしょう。
また、ベルメゾンのカタログを見てワクワクするというようなことも減ったように思います。今はモノよりもコトを消費する風潮があると言われていますが、ベルメゾンは早くからコトを売っていました。一方で多くの企業もコトを売るようになったため、ベルメゾンの魅力が相対的に薄れてしまったのではないでしょうか。
そう考えると、商品ラインナップの専門性をより高めるというのはなかなか難しいように感じます。これまでもコトをより充実させてきたのに、さらに頑張れという話になりかねないですからね。
もちろん、重点領域を絞り込んだり商品開発に人員を厚くしたりすることで、商品開発力はアップすると思います。しかし、それよりも重要なのは業務を絞り込み、スピードアップさせることではないでしょうか。
私は何度かベルメゾンから仕事をいただいておりますが、ベルメゾンの社風は本当に良いです。千趣会は大阪に本社を置く会社なんですけど、全然ガツガツしていなくて、本当に社員の皆さんが良いと思う商品を誠実に提供していこうとしていることが節々から伝わってきます。
半面で、良い社風であるからこそ脆さも感じます。皆が平等に意見を述べ、それを尊重する風土があるため、トップダウンで物事を推し進めるようなところがないのです。商品名に分かりやすさを求めないのも、従来の慣例を尊重し過ぎるところがあるからかもしれません。
ともあれ、ベルメゾンには良い商品が多いですし、何より本当に誠実な会社です。きっと確実にV字回復を果たしてくれることと私は信じています。
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