「IDC大塚家具赤字転落」…昨日の2016年12月期の業績予想の大幅下方修正を受けて、本日の各社ニュースサイトにはこのような見出しが並びました。昨年の「お家騒動」後はマスコミへの露出が増え、「売り尽くし」や「おわび」セールで大盛況となったものの、その反動があっただけでなく、”今期の売上高は前期比42億円減の538億円と、過去15年間で最低になる見込み”(東洋経済オンライン)だそうです。
赤字転落は新生IDC大塚家具の魅力が伝わらなかった結果
もともと家具業界に身を置いていた私としては、創業者である大塚勝久氏の方針も、長女で現社長のかぐや姫こと大塚久美子氏の方針も、方向性としては間違いではないと考えています。昨今の経済状況を踏まえると、IDC大塚家具が変わらなければならなかったことは間違いないですし、店舗のオープン化をすればこれまで抱えていた富裕層の顧客が逃げかねないからです。
ただ、IDC大塚家具が変わろうとすれば店舗のオープン化は避けられなかったわけで、今回の赤字転落は、せっかく世間の注目を集めて来店客増となったのに、その後のリピートに繋がらなかったことが大きな問題だと考えられます。今までの常連客としてはきちんと接客してくれないと感じる一方、新規のお客さんはぶらーっと見に来てそのまま帰ってしまうということが多かったのでしょう。この点で久美子社長は、従業員に対する顧客対応オペレーションが未熟だったと考えているようです。
確かにその影響はあったとは思いますが、だからと言ってお客にベッタリと張り付けば売れたかというと私にはそうは思えません。まさに百聞は一見にしかずで、店員がお客に何をしゃべろうと、お客にとって大事なのは商品そのものや売場だったはず。つまるところ私としては、オペレーションの問題よりも新生IDC大塚家具の商品や売場の魅力が伝わらなかった結果だと考えています。
新生IDC大塚家具には「安さ」が足りない
私は最近のIDC大塚家具の有明や新宿のショールームは見ておらず、大阪だけなので事情はちょっと違うかもしれませんが、現状では「ただ受付を廃止しただけ」という感じが強いです。品質的には良いものが揃えられており、値段ももちろん高価ですけど、あまり目の保養になる感じもしません。また、「安い!」とか「欲しい!」とか思うようなものはないですね。全然財布の紐が緩む感じがしないのです。
この感覚は、IKEA、ニトリ、無印良品と比較して考えてみると分かりやすいと思います。いずれも元々のIDC大塚家具の顧客層とはまったく違います。でも、IKEAやニトリや無印良品にも富裕層は行きます。逆にIDC大塚家具が富裕層以外の顧客を取り込もうと思えば、庶民の感覚も取り入れなければなりません。
IKEA、ニトリ、無印良品。これらの店は家具に関して言えば、いずれもまともな家具は置いていません。安かろう悪かろうとは言いませんが、値段相応の家具を置いていると言えます。より正確に言うと、IKEAの場合は特価品で釣っておいて割高な家具まで安いと思わせてしまうビジネスモデルだと言えます。また、ニトリや無印良品は手頃な価格の日用品を提供しつつ、家具などで客単価を上げていると言えるでしょう。つまるところいずれも「この店は安い」と思わせる要素が散りばめられているのです。
一方のIDC大塚家具はどうかというと、もちろん安いと言える商品はあります。しかしそれは他の商品との違いを説明しないと安いということが伝わらないものばかりです。一般の消費者は、説明がないと「このくらいのものならどこでも買えるんじゃない?」と感じたり、むしろその価格帯で揃えられている他の家具店での購入を検討するはずです。
IDC大塚家具のビジネスモデルはもともとヤマダ電機に似ていると私は考えています。他店と競合すれば値引をすることで信頼を得るというやり方ですね。でもそういう事態が起きなければ、売場に並んでいる家具は決して安いとは言えませんし、そもそもIDC大塚家具の場合は富裕層を相手にしているので単価が高いものばかりです。
ヤマダ電機の場合は値札や陳列で安さをアピールすることができますが、IDC大塚家具の場合は相も変わらず「国内最安値」というハッタリをかましているだけで、売場には安さを感じさせる仕掛けがありません。だから庶民の感覚には響かず、今回の赤字転落になっているのだろうと思います。
私はてっきり、庶民感覚で買える持ち帰り雑貨を増やすもんだと思ってましたけど、現状ではそうなっていないようですね。新生IDC大塚家具が軌道に乗るためには、今までの立ち位置から1段も2段も降りて庶民感覚で親しみやすい売場作りが必要であろうと思います。
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