先日、久しぶりに東京でセミナーがあったので、新幹線の車内で読むために事前に本を購入しました。ネットのニュースで取り上げられていた「ミニマリスト」の本です。
『ぼくたちに、もうモノは必要ない。 – 断捨離からミニマリストへ』(著者:佐々木 典士、発行:ワニブックス)という本です。以下に私の感想を述べさせていただきますが、ネタバレを含みますので、あらかじめご了承ください。
ミニマリストという生き方は素敵だと思う
ミニマリストとは、必要最小限のモノで暮らす人のことです。私も含め、多くの人が不必要なまでにモノを持ち、それらのモノによって便利な生活を送る一方で、逆に増えすぎたモノに煩わしさを感じながら暮らしています。ミニマリストはそういったことに気づき、必要最小限のモノしか持たないことで、豊かで幸せな日々を送ることができる―――。そのように紹介されていたので、私はかなりの期待感を持ってこの本を手に取りました。
結論から言うと、ミニマリストという生き方は素晴らしいと思います。が、この本に関して言えば、私の期待していたものとはちょっと違いました。いかにミニマリストが素晴らしいかということが書いてあると思ったのですが、著者がミニマリストになる前の生き方を貶めることで相対的にミニマリストという生き方を持ち上げているように感じました。
ミニマリストという生き方についても十分にボリュームを割いているのですが、ミニマリストとは直接関係のない「ちょっといい話」やエッセーのような内容が多く、やたらとスティーブ・ジョブズの話が登場します。ミニマリストの代表格としてスティーブ・ジョブズを挙げること自体は分かるのですが、ではミニマリストになればスティーブ・ジョブズになれるのかというともちろんそういうわけではなく。少なくともこの本の中で紹介されている著者のミニマムな思考ではスティーブ・ジョブズのような偉業を達成することは困難に思えました。
個人的には共感できない点が多すぎた
私はミニマリストという生き方は素晴らしいと思います。それはこの本を読んで十分に伝わりました。ただ、著者には共感できない部分が多すぎたのです。なんというか、ヘビースモーカーだった友人が数年のうちに減煙し、ついに禁煙に成功した途端、以前の生活ぶりを否定的に捉え、「禁煙のススメ」を語り始めたような感じなのです。
著者は以前の自分がモノを”自分自身”、自分の一部、自分のアイデンティティと考えていたと言うのですが、モノに対する執着心がこれほど強い人も珍しいと思います。そしてミニマリストになった現在も、”少ないモノ”ということに執着しているようにすら感じました。結局、モノが多いか少ないのかの違いだけで、モノは著者にとってのアイデンティティなのでしょう。
また、この本によると、人間は慣れて飽きてしまう生き物だそうです。これは確かにその通りだと思いますし、このことについて著者が重点を置いていることも分かります。ただ、そこが分かれば分かるほど、著者がミニマリストという生き方に慣れて飽きてしまうのではないかと心配になりました。
著者がそこまで過去を否定しなければいけない理由は何だったのでしょう?同様にモノを自分自身と考えるほどモノに執着している人ならむしろ共感できると思いますが、私が今までにたくさんのマキシマリスト(=モノが多い人)を見てきた中ではそこまでの人はまったく思い当りません。過去を否定することでしか今のミニマリストという生き方を肯定することができなかったのではないかと邪推してしまいます。
もう一度買いたいと思えないモノは捨てる
この本は私にとっては共感できない部分が多かったのですが、ひとつだけ大いに共感したところがありました。「捨てルール」のひとつとして紹介された”もう一度買いたいと思えないモノは捨てる”ということです。
私自身はこの「捨てルール」を使ったことがないのですが、私の身の回りは「もう一度買いたいモノ」で溢れています。ラングラーのブーツカットのジーンズは同じ型のものを10本くらい買っています。大学生の頃から、私のブルージーンズはずっとラングラーのブーツカットなのです。スニーカーも同じような感じで、ニューバランスのものは色違いで2足持っていたり、ナイキのは同じものをあちこち探し回りました。食べるものについても同様で、牛丼と言えば吉野家。すき家や松屋には浮気しません。
しかしこういうことを繰り返していては進歩がなくなるので、最近はむしろ新しいモノ、新しいお店にも挑戦中です。ただ、習慣はなかなか変わりません。街中に行くとどうしてもドトールを目指してしまいます(苦笑)
”もう一度買いたいと思えないモノは捨てる”ことよりも、”もう一度買いたいと思えるようなモノを見つける”ことは、ものすごくエネルギーが必要なのです。だからみんなテキトーに買っちゃう。そして使わなくても新品同様だから捨てずに置いておいてしまう。まさに、「分かっちゃいるけどやめられない」習慣なのです。
とまれ、いろいろ失礼なことを述べましたが、この本はある意味で良書だと思います。著者自身も博識で魅力的な方だと察します。「批判からは何も生まれない」なんて言いますけど、その中で私自身の頭の整理ができたように思います。
また、この本はアマゾンの売上ランキング1位になった本です。アマゾンでは、本文にまったく言及していないトップレビューに作為的なところを感じないこともないのですが、ミニマリストに興味を持つ人、共感する人が多い証拠でしょう。モノが多いことにウンザリしている方にとっては、一読の価値があるかもしれない本ではないでしょうか。
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