いま家具業界と不動産業界でにわかに注目を集めている「ホームステージング」という手法があります。かたちとしては住宅展示場のモデルハウスやマンションギャラリーのように、家具などのインテリアを設えることで「高見え」させて販売に繋げるという手法ですが、それを賃貸物件や中古物件でもやってしまおうという試みです。
モデルハウスやマンションギャラリーの場合は一度家具などを設えたら、一定期間、まとまった件数の住宅の販売に結び付けられるため、効率が良いです。それに比べると、賃貸物件や中古物件の場合は1件ずつの成約ですから、効率が悪いです。そのため、これまでは敬遠されてきました。
しかし、近年はそうも言っていられなくなってきました。売上が漸減傾向の家具メーカーや販売店としては、なんとかして売上を確保したい。不動産業者としても、供給過多に陥っている賃貸住宅や中古物件を捌いていかなければなりません。
とは言え、賃貸住宅や中古物件にホームステージングを導入するのはやはり難しいことに変わりありません。借主または買主がホームステージングで設置した家具などをそのまま気に入って買い取ってくれれば良いですが、気に入らなければ搬出し、それをメンテナンスしたうえで保管しなければなりません。
その点、このたび野村不動産アーバンネットが不動産情報サイト「ノムコム」で導入した「VRホームステージング」は、そういう問題がない効率的なホームステージングのかたちとして注目に値するでしょう。
「VRホームステージング」@ノムコム
出典:PR TIMES
このたびノムコムが導入した「VRホームステージング」は、ナーブが提供するVRシステム「VR内見」に、リビングスタイルが保有する家具データベースを組み込み、360度カメラで撮影した室内写真にCG家具データを配置したものです。
VRホームステージングはまだ導入初期ということもあってか、現在のところ首都圏の4物件を対象に導入しています。また、いずれも基本的にリビングダイニングのみに家具などを置いており、ほかの部屋はただのVR(ヴァーチャルリアリティー)です。
VRホームステージングのメリット
冒頭でもお伝えした通り、実際に部屋に家具などを置くホームステージングでは家具の搬出入が大変です。物件にキズを付けないように気を配ったり、搬出したあとの保管場所の問題もあります。また、できるだけ買主に買い取ってもらおうと思えば、その選定も慎重になることでしょう。
一方、VRホームステージングなら、実際に家具を搬出入するわけではありませんから、それと比べれば負担がありません。また、そういった業者側の思惑に関係なく、購入希望者としてはその物件に住んだ場合のイメージがしやすいと言えるでしょう。
VRホームステージングのデメリット
他方でVRホームステージングにはデメリットもあります。まず利用者視点で言うと、非常に見にくいと感じました。リビングダイニングの中央付近にカメラを設置して広角で撮影しているため、左右の歪みが大きすぎるのです。正直、VRではなくAR(拡張現実)を使って部屋の隅から撮影した静止画のほうが見やすいのではないかと思いました。
また、今回ノムコムが実際にVRホームステージングを導入した物件に関しては問題なかったものの、悪意のある業者がこれをやるとロクなことがないだろうなとも思いました。ノムコムのVRホームステージングでは、リビングセットやダイニングセットに加え、テレビボードや食器棚も配置されていますが、悪質業者ならそういった収納家具は敢えて置かないことで部屋を意図的に広く見せる可能性が高いと感じました。
実際、マンションギャラリーではそういうことが少なくないんですよ。「え?こんなところにこんなデカいソファーを置いたらテレビはどこに置くの?」っていうようなことが多々あるのです。VRホームステージングなら暮らし方をイメージしやすいという思い込みを逆手にとって、購入希望者が錯覚してしまうリスクを感じます。
そのほか、業者側の視点で言うと、VRカメラを設置して撮影し、さらにVRシステムと家具の3Dデータを使って画像を加工するというのは、口で言うのは簡単ですけど、実際はすごく大変でしょうね。コスト的にも仲介手数料からすると割りに合わないかもしれません。
総じて、別にVRじゃなくてARで良かったんじゃないかなーというのが率直な感想です。ただ流行ものに乗ってみました、という感じがします。
しかし一方で、家を探しているときに写真や間取り図も不十分と感じることが多い現状、少しでも利用者に多くの情報を与えようとする姿勢は非常に好感が持てます。今後は費用および手間に対する効果を精査して、高い次元で利便性の高いサービスを提供していってもらえると助かりますね。
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