世紀の親子喧嘩以来、話題に事欠かないIDC大塚家具。当初は次世代へのバトンタッチを歓迎する報道が多かったものの、業績が低迷するにつれ親不孝者と呼ばれることが増えました。
しかしながら、ここに来て和解成立のニュースが飛び込んでまいりました。報道によると、「スローファニチャーの会」なる団体の立ち上げにあたり、大塚家具の前会長で匠大塚の社長である大塚勝久氏に名誉会長への就任をお願いするかたちで”事実上の和解”を果たしたということです。
”事実上の和解”というところに一抹の不安を感じましたが、勝久氏もまんざらではなさそうなので、本当に和解ができて良かったなーと思います。
それはさておき、今回の和解を果たす秘密兵器となった「スローファニチャーの会」。一体どんなものなのか見て参りたいと思います。
※この記事は2019年4月26日時点の情報に基づいています
「スローファニチャー」の会とは
スローファニチャーの会の設立趣意書には、以下のことが書かれています。
- 家具販売店である大塚家具・大塚久美子社長と家具メーカーの飛騨産業・岡田贊三社長が代表発起人となって設立
- ファストフードやファストファッションのように「消費される」家具(=ファストファニチャー)が普及する現状、伝統的な職人技と誠実なものづくりの精神(クラフトマンシップ)に支えられた「スローファニチャー」の価値を広く伝えることを目的とする
ただ、これだけでは消費者としてどういうメリットがあるのかよく分かりません。そこでプレスリリースを見ると、具体的な活動として以下のように書かれています。
スローファニチャーの会では、クラフトマンシップに支えられたものづくりの過程がわかるよう、作り手の工房やデザイナーのアトリエの見学会を企画します。職人やデザイナーらの作り手が思いを語る対談等も行います。会のホームページを立ち上げ、そうしたイベントの情報を発信するとともに、見学会や対談をアーカイブ(保存・活用)する予定です。
こういう活動はインテリアコーディネーターなどのプロを対象としたものはありましたが、一般ユーザー向けではこれまでほとんどおこなわれてきませんでした。もしくは東京一辺倒で、地方では皆無。全国にショールームを構える大塚家具が取り組むことは大いに意義があると思います。
家具メーカーはどこも業績が苦しくてPRにお金がかけられないということもありますが、それ以上に「良い品を作ればお客さんは分かってくれる」と思っているところが多くて、消費者に直接アプローチするということをこれまでほとんど考えてきませんでした。加えて言えば、家具販売店を飛び越して消費者に直接訴えかけたとしても、競合などの問題を引き起こすだけと考える風潮があります。
このスローファニチャーの会がそういった現実をどのように変えていくのでしょうか。期待して見て参りたいと思います。
現状では大手不在
スローファニチャーの会の代表発起人は大塚家具と飛騨産業の社長です。また、発起人には以下の通り名前が挙がっています。
青森 宏悦 (株式会社アーリー・タイムスアルファ 取締役社長)
五十嵐 久枝 (イガラシデザインスタジオ)
五百部 喜作 (株式会社イヨベ工芸社 代表取締役)
風巻 穣 (秋田木工株式会社 代表取締役社長)
小林 一朗 (マルイチセーリング株式会社 代表取締役社長)
中野 浩一 (株式会社森繁 代表取締役社長)
西村 秀之 (株式会社スリープセレクト 代表取締役社長)
橋詰 和弘 (株式会社橋詰家具 代表取締役社長)
守次 拓 (松岡家具製造株式会社 代表取締役)
山根 誠一郎 (ヤマネホールディングス株式会社 代表取締役社長)
(五十音順、敬称略)
販売店としては大塚家具のみ。秋田木工は大塚家具の子会社。残りの多くは大塚家具に商品を納めている家具メーカーです。イガラシデザインスタジオはデザイン事務所、ヤマネホールディングスは工務店で、おそらく大塚家具の取引先なのでしょう。
つまり、現状は「現・大塚家具とゆかいな仲間たち」という状態で、大手家具メーカーと言えるのは飛騨産業くらいです。おそらくは匠大塚の手前、状況を静観しているのではないでしょうか。大塚勝久氏が名誉会長に就任したことで、今後は大手メーカーの参加も見込めるのではないかと思います。
レンタルやリースも?
最後に、スローファニチャーの会の設立趣意書には、ひとつ興味深いことが書かれています。
長い目で見れば、安価なものを使い捨てにするよりも、いいものを長く使うほうが経済的でもあり、また、リースやレンタルなどの手法を使えば、短い期間であっても負担を軽くしながら使うことが可能です。
代表発起人である大塚家具は家具販売店です。今のところ、家具のレンタルやリースをおこなっているという話は聞きません。しかしながら以前に久美子社長は、「リユース市場を確立すればレンタルやリースも可能になる」という趣旨の発言をしています。
大塚家具はリユース家具を扱っていますが、今のところ「確立した」と言える感じではありません。しかしながら、まだレンタルやリースは視野に残っているということなのでしょう。もしくは、他の家具販売店はもちろん、家具レンタル業者にも声を掛けていくつもりだということでしょうか。
さすがにそこまでやってしまうと意見を集約するのが難しくなってくると思いますが、今後の可能性に期待したいと思います。
スローファニチャーの会はまだ立ち上がったばかりなので、現状では何とも言えないところがあります。個人的にはたとえばマルイチセーリングのソファの工場見学があったら行ってみたいと思いますが、一般ユーザーでマルイチセーリングを知っている人はほとんどいないでしょうから、なかなか難しいところがあるように思います。
しかしながら、ビッグネームも織り交ぜつつ定期的に情報発信を続ければ、新たな家具との出会いが生まれることは間違いありません。「下手な鉄砲でも打てば当たる」と言うと失礼ですが、情報発信は数を打ってナンボ。打ち続けるうちにヒットを量産するコツも見えてくるはずです。
というわけで、個人的には大いに期待しております!
2019/05/14追記:
勝久氏は「業界が良くなることには協力を惜しまない」と前向きな姿勢を示していたが、その後、「団体の目的について十分な説明がない」として、就任を見送った。
引用:時事通信
4月下旬に事実上の和解が報じられたものの、大塚勝久氏がスローファニチャーの会の名誉会長就任を見送ったことで和解ムードが吹き飛んでしまいました。いったいゴールデンウィーク中に何があったのでしょう?
勝久氏の「団体の目的について十分な説明がない」ということが文字通りであれば、ほかの家具販売店やメーカーとの将来的な関係性について久美子氏側から明確な回答がなかったのかもしれません。もしくは、単なる名誉職で事実上、発言権がないことに腹を立てたとか。
どこもそうなんでしょうけど、親子って難しいですねー。
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