前回の徳島市のテラスハウスのところで、”サザエさんのお宅のように昔はこういう勝手口がある家が一般的でした”と述べました。
そこでふと、「磯野家の収納間取り診断をしてみたら面白いかも?」と思いつきました。そんなわけで今回は、東京都世田谷区の磯野家の間取りを見てみたいと思います。
磯野邸・平屋一戸建て(5K/東京都世田谷区)
- 賃貸か持ち家かは不明
- 間取り=5K、専有面積=約105平米
- 築年月日=不明、建物構造=木造
磯野家の間取りのディテールについては論争の余地があるようですが、個人的に気になったのは玄関寄りのマスオとサザエとタラオの部屋の広さです。ここは6畳説と8畳説があるようですが、3人が川の字になって寝ているシーンから推定すると8畳であると考えるのが妥当ではないかと思われます。
また同様に、カツオとワカメの部屋も4畳半説と6畳説があるようですが、マスオ一家の部屋が8畳だとするとカツオらの部屋は全体の間取りから6畳が妥当と考えられます。
女性にとってやさしくない磯野家の家事動線
さて、それでは磯野家の家事動線について見ていきましょう。ここでは、料理、洗濯、掃除について、順番に見ていきたいと思います。
キッチンは広いが仮置きの場所が必要
台所は約6畳あるようでスペース的にはゆったりとしています。冷蔵庫はシステムキッチンのすぐ近くですので、いわゆるキッチンのワークトライアングル(シンク、コンロ、冷蔵庫を結んだ線)もコンパクトです。ただ、食器棚が遠く、料理を盛り付けたりする仮置きのスペースがありません。7人の大家族ですから、仮置きのスペースは相当広くないと困るでしょう。
冷蔵庫の向きを変え、その横にカウンター式の食器棚を置いて、セミクローズのキッチンにすれば問題は解決されるのですが、サザエさんとフネさんが二人でキッチンに立つことが多い現状を見ると、それではキッチンが狭くて調理がしにくいと考えられます。よって現状のままであれば、浴室側の壁面にワゴンを置き、そこを仮置きスペースとして利用するのが望ましいと思われます。
洗濯の動線は悪くないが洋服の片づけが大変
洗面脱衣所の洗濯機から洗濯物を取り出し、波平とフネの部屋を通って縁側から物干し台に向かうという洗濯動線は、それほど距離も長くないため合理的と言えます。波平とフネのプライバシーの保護という観点で言えば好ましくないのかもしれませんが、フネも主婦として洗濯をするわけですから、本人さえ納得していれば問題はないでしょう。
ただ、磯野家の場合、洋服の片づけが大変そうです。洋服の収納場所は3部屋に分かれていると思われ、各部屋に配達する必要があります。また、いずれの部屋でも洋服タンスに頼っているところが多く、しかも十分な量とは思えません。特に女性であるサザエさんとフネさんの洋服の収納スペースが少なすぎるのではないかと思います。
現状、カツオらの部屋やマスオらの部屋は家具の数も多く、新たに整理タンスを置くことも難しいと思われます。押入れの中に引出式衣装ケースを収め、収納スペースを十分に確保することが望ましいと言えるでしょう。
各所に開口部が多く掃除が大変
磯野家はいわゆる田の字型の間取りでありながら、玄関からトイレに至るまでの廊下も長く、そのためふすまや障子がいくつもあります。そのため、敷居や障子の桟の掃除が大変です。なまじ100平米を越える広さのため、掃除機を使うにしてもコンセントの抜き挿しが必要になります。
さらに磯野家ではシーリングライトではなくペンダントライトを多用しています。すべて和室ですからデザイン的配慮があってのことかと思いますが、これでは掃除が大変です。環境負荷低減のためにLED化を進めると同時に、デザイン性への配慮の必要性が乏しいカツオらの部屋やマスオらの部屋はシーリングライトに切り替えることが望ましいと思われます。
トイレへの通路と化し波平怒る
家事動線以外の磯野家の問題にも触れておきましょう。まず気になるのはトイレの位置です。おそらくは庭にスペースがあることから増築によってこの場所に設けられたのだと思いますが、この位置ではトイレで用を済ました後に洗面所に手を洗いに行く必要があり、洗面脱衣所と台所からトイレに行く場合も、波平らの部屋を通ることになります。
洗濯物を干すために波平らの部屋を通る回数は限られますが、トイレに行く度に家族が部屋を通るようではさすがの波平も怒り心頭であることでしょう。
おもてなしの心で普段の生活が犠牲に
磯野家の間取りは客人をもてなす気持ちが前面に立ち、家族の普段の生活が犠牲になっていると言えるところがあります。それは客間が家の中心にあり、特にマスオらが狭い部屋に押しやられていることからも明らかです。
もっとも、マスオらが磯野家に居候した経緯を見ればそれも致し方なしかと思うところはあるのですが、そろそろ客人主体の間取りを見直すべき時ではないでしょうか。居間と客間をぶち抜いて広いリビングダイニングとし、トイレは現在のテレビの場所に。マスオらの部屋は仏壇のあるところまで拡張するのが良いかと思います。仏壇は現代的な家具調のものにしてリビングに置くと良いでしょう。
小さすぎるちゃぶ台
間取りには直接関係ない話ですが、アニメのシーンを見る限り、居間に置かれたちゃぶ台は最大でも直径105cm程度と考えられます。このちゃぶ台を家族7人で囲むと、一人あたりの幅は約47cmとなります。
47cmと言うと成人男性が軽く脇を締めた状態の幅で、ダイニングテーブルで必要な一人あたりの幅60cmと比べるとかなり狭いです。子供が3人おり、女性も2人いるとは言え、もう少し大きなちゃぶ台を使ったほうが良いのではないでしょうか。
なお、一人あたりの幅を60cmとするためには直径135cm以上のちゃぶ台が必要となります。8畳の居間とは言えちょっと窮屈ですが、テレビを東芝「レグザ」に買い替えることで解決できるのではないかと思われます。
総じて磯野家の間取りは、家父長制度の色合いが強く、女性をあまり尊重せず、娘婿も冷遇していると感じさせるところがあります。波平は世間体を大事にするとともに女性を低く扱うことで家長としての権威を守ろうとし、娘婿に軒を貸して母屋を取られることを密かに恐れているのかもしれません。
とは言え、波平ばかりが悪いわけではありません。フネは主婦業に甘んじ、昔ながらの妻と母を演じることで、家事を改善することを怠っていると言うこともできます。サザエも外出の機会が多く、もう少し家事がしやすくなるように家の中に意識を向けたほうが良いでしょう。
マスオもマスオです。現状に甘んじることなく、神奈川県あたりにでも引越しするべきでしょう。義父母や妻の顔を立てるふりをしながら、都合の悪いことに目をつむり過ぎではないでしょうか。
おっと、間取り診断から磯野家の住人の個別攻撃になってしまいました(苦笑)ともあれ、磯野家はプライバシー保護の観点は希薄ですが、家族の風通しも良く、掃除の大変さをのぞいてはそれほど大きな家事の問題もないと思います。ただ、調理と配膳がもっとスムーズにできるように改善の余地は大きいと思いますし、これから増えるであろう洋服の収納スペースの確保も喫緊の課題であると思います。
※この記事は現代的なライフスタイルに基づく間取りの診断をおこなうものであり、「サザエさん」の世界観を否定するものではありません。
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