世界中で何人もの幼い子供が犠牲になったことで「殺人チェストのメーカー」という不名誉なレッテルを貼られてしまったIKEA(イケア)ですが、決して安全性を軽視しているわけではありません。”組立て説明書にきちんと従って壁に適切に固定すれば安全に使用できる”と繰り返しアナウンスし、チェストなどの家具は壁に固定するように強く促しています。
裏を返せば、”事故が起きるのは家具を壁に固定しないユーザーの問題”と捉えられかねない言い草です。しかし、そもそも日本とヨーロッパでは家具の文化が異なります。日本では家具は完成品が標準。それに対してヨーロッパは組立式が当たり前。そのままだとグラグラするので壁に固定するのは当然のことと考えられています。日本人が風呂に入る前に服を脱ぐのが常識と考えるように、ヨーロッパでは家具を壁に固定することは至極当然のことなわけです。
そんなわけで、IKEAとしては日本を含む家具後進国に家具を壁に固定するよう啓蒙したいのだと思います。その一環で、「VIHALS(ヴィーハルス)チェスト」に世界で初めて搭載された「アンカー&アンロック」という転倒防止機能の特許権を広く開放することを発表しました。
※この記事は2023年10月6日時点の情報に基づいています
IKEAの転倒防止機能「アンカー&アンロック」とは
ヴィーハルスチェストに採用されているアンカー&アンロックシステムについては、文章で説明するよりも上の動画をご覧いただいたほうが早いと思います。要は壁にネジで固定しない場合は1段ずつしか引き出せないけれども、壁に固定すれば全段同時にでも引き出せるという機構です。
こんなシステムを採用しなくても壁に固定すれば安全に使えるわけですが、壁に固定しない場合も安全性を担保しながら使えるというところが画期的と言えます。「MALM(マルム)チェスト」にもこのシステムが採用されていたら、不幸な事故は起きなかったかもしれません。
特許誓約書でコラボレーションを可能に
IKEAの今回の発表は、特許誓約書にサインすることで他社でもアンカー&アンロックシステムを使えるようにするというものです。実際のところ、家具メーカーが自社でこの金具を作れるはずはなく、金具メーカーに相談したところで難しい話だと思います。結果的にこの金具をIKEAから仕入れるというのがもっとも現実的で、IKEAとしてはまったく損にはならないでしょう。
しかしながら、IKEAがこのシステムを独占することもできました。それを開放することでこのシステムの普及を促すという戦略は、IKEAにとってもユーザーにとっても良いことだと思います。あとは日本の家具メーカーがどれだけ興味を持ってくれるか次第ですね。
先般、日本でも「子どもの安全に配慮したチェストに関するJIS」規格が策定されましたが、チェストが絶対に倒れないようにするには今のところ家具を壁に固定するより他ありません。一方で、賃貸住宅に住んでいると難しかったり、持ち家でも壁に穴を開けたくないという人はたくさんいます。
それでも壁に固定することを粘り強くアナウンスしたり、アンカー&アンロックシステムを採用することで壁に固定しなくても倒れにくい家具を開発することは重要だと思います。
消費者としてもチェストは倒れる危険性があることを認識するとともに、倒れてきても危険性が低いプラスチック製チェストを積極的に取り入れるなどの対策が必要だと思います。
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