「作業動線や生活動線に合わせてモノを配置する」ということは収納のセオリーのひとつです。たとえば、キッチンのシンクで水を汲むために鍋をシンク下に収納する、掃除機は家の中心に収納する、といったことがそれです。
しかしこれはそれほど重要なセオリーとは言えません。作業動線に合わせる場合はほとんど問題ないですが、生活動線に合わせて家中に分散して物を収納してしまうと、かえって収納が難しくなってしまう場合があります。
生活動線に合わせるとモノが分散してしまう可能性あり
ある大手住宅メーカーのサイトで、「優れた収納の仕方」が紹介されていました。子供は玄関を入ると玄関収納にボールを収め、玄関近くの収納に帽子を置き、リビング横の学習スペースへ。お母さんは2階のベランダ近くにある洗濯機から洗濯物を取り出してベランダの物干し場へ。お父さんは玄関とリビングの間にあるウォークインクローゼットに上着とカバンを収納してリビングへ。これを見たら、きっと多くの方が「素敵!」と思うことでしょう。
その住宅メーカーの名前や実際の間取りを紹介することはここでは控えさせていただきます。また、あまりにもゆったりとした間取りであるため一般的な間取りとは言えず、コンセプトモデル的な間取りですので、決してそのメーカーが収納のことを理解していないとは思いません。ですがこれはやっぱりちょっと冷静に考えればおかしな間取りなのです。
子供のモノが玄関、玄関近くの収納、リビング横の学習スペースに分散。これくらいはまだ問題ないと思うのですが、2階には別に子供部屋があり、第2リビングまであって、そこにも子供のモノが置かれています。お父さんは玄関とリビングの間のウォークインクローゼット、書斎、寝室横のウォークインクローゼットにモノを収納。お母さんは洗濯をするのは楽ですが、1階のキッチンとの間を行ったり来たりする必要があるうえに、子供やお父さんに比べてモノを置く場所が十分とは言えません。
このことは図面を見ないと何を言っているのかサッパリ分からないと思いますが、つまるところ、モノが分散しすぎているのです。モノを置く場所が分散すると管理が行き届かなくなり、死蔵してしまったり、どこに片づけたか分からなくなったり、そもそもどこに片づけて良いかが分からなくなってしまいます。また、モノからモノへの動線が長くなり、結局、片づけにくい家になってしまって散らかりやすくなります。
「収納の多い家」は片づかない
意外に思われるかもしれませんが、新築のお宅で一番多い収納のご相談は「収納が多すぎて片づかない」ということです。片づけが苦手だからたっぷりと収納スペースを設けたものの、モノが分散してしまって生活動線が長くなり、どこにどうモノを片づけて良いのか分からなくなってしまうのです。廊下にズラッとクローゼットを設けても、そこで服を着替えるわけでもなく、他に何をするでもないため、何を収納して良いか困ってしまうのですね。
収納は「使うモノを使う場所に収める」ことが鉄則です。また、分散すればするほど管理が大変になるので、「できるだけ一ヵ所にまとめる」ことが大事です。新築でモノが分散し、何をどこに片づけて良いか分からないお宅の場合は、廊下などの余計な収納は敢えて使わず、普段の生活で必要だと感じる場所にまとめて収納するようにオススメしています。
収納を増やしたいなら納戸でOK
収納を増やしたい場合は、生活動線に合わせてあちこちにモノを分散させてしまうよりも、納戸を設けることをオススメします。納戸とはつまり物置部屋のことですね。リビングダイニングがスッキリしている、片づけが上手に見える人のお宅は、納戸を設けていることが多いです。ちなみに我が家も、3DKの間取りのうち1部屋は納戸(衣裳部屋)になっています。
もちろん、そこに住む人によって、置くモノによって、収納がどうあるべきかは異なります。ただ、各部屋にクローゼットを設けて家族各々の衣類を収納するよりも、ウォークインクローゼットを設けて家族全員の衣類をまとめて収納するほうが管理がしやすいように、基本的にはモノは分散させないほうが管理が楽なのです。
冒頭の例のような収納の仕方が悪いということは決してありませんが、収納は動線に合わせるよりもできるだけ一ヵ所にまとめるほうが大事であるということは、念頭に入れていただければと思います。
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