言葉って難しいですね。「クローゼット(closet)」って言ってもイメージするものは人ぞれぞれで、大工や不動産屋に言わせればパイプハンガーが付いた収納スペースであれば何でもクローゼットです。ハンガーパイプがなくても、折れ戸が付いた収納スペースのことをクローゼットと呼ぶ場合もあります。けれども私は奥行60cm前後であるべきで、扉の形状は関係ないと考えています。
クライアントと話をしていてもこういうことはよくあります。たとえば「引出式衣装ケース」のことを「カラーボックス」と言う人は案外多いです。その言葉とそれぞれがイメージするモノのギャップを埋めないと会話が成り立ちません。
妻に「何食べたい?」と聞いたら、「麺類はいらないな~。じゃあ、うどんで。」と言われて一瞬言葉を失ったことがあります。大阪人にとって、うどんは麺類を超越したものなのでしょうか?
そういう私自身も言葉の使い方はかなりテキトーです。たとえば「収納」。厳密に言えば、収納とは収める行為のことで、場合によっては収納スペースや収納家具のことを指します。一方で私はそういった収納本来の意味に加え、「片づけ」や「整理整頓」といったニュアンスも含めています。
だって「片づけ」って言われると、なんだか拒否反応を示してしまいませんか?「収納」のほうがなんだか楽しそうな感じがします。もちろん人によって違うとは思いますが…。そんなわけで私は敢えて「収納」という言葉を好んで使っています。
中途半端なクローゼットなら無いほうがマシ!
話を元に戻しまして、冒頭で私はクローゼットについて「奥行60cm前後であるべきで、扉の形状は関係ない」と述べました。
一般的にクローゼットは洋服を掛けるためのスペースですので、肩幅+αで奥行60cmくらいがちょうど良いのです。また、幅は基本的に90cm以上あるべきだと考えています。洋服の量は女性でパイプハンガーの幅にして180cm程度、男性で90~120cm程度が理想であるためです。
もちろんオシャレを自認される方や職業柄どうしても洋服が必要な方はそれ以上であっても問題ありません。一般的にクローゼットは幅が60cm程度のものも多いですが、それでは誰にとっても中途半端だということです。
一方、クローゼットの扉の形状は折れ戸であることが一般的ですが、これについては私は何でも良いと考えています。より正確に言えば、取り付ける場所や幅に応じて扉の種類は変えるべきです。
幅60cmのクローゼットなら観音開きのほうが良い場合もあります。幅120cm以上なら引き戸を検討したほうが良い場合も多いです。また折れ戸の場合は部屋の出入り口から入って動線を妨げる位置に畳んだ戸が固定されるケースも散見されます。こういうのは逆にすべきでしょう。
このようにクローゼットと一言で言っても実に様々なわけですが、総じて収納のプロの目から見て納得できるものは少ないです。中途半端なクローゼットなら無いほうがマシだと常々思います。
収納が多い家はダメな家
このように申し上げると、「なんだ。クローゼットは90cm以上ないとダメで、扉の形にもこだわらなければいけないのか。それじゃお金が掛かるじゃないか。」と思われるかもしれません。しかしそれはまったく誤解です。私は収納が多い家はダメな家だとハッキリ申し上げておきたいと思います。
「モノが多いと場所代が掛かるから収納スペースを多く取るのは無駄」なんて正論を言うつもりはありません。私が言いたいのは、前述のような中途半端な収納スペースが家のあちこちにあるのはダメだということです。もっと言えば、何をどれくらいどのように収めたいのか定かではない収納スペースは無駄だということです。
前段で「一般的にクローゼットは洋服を掛けるためのスペース」と申し上げました。まただから「肩幅+αで奥行60cmくらいがちょうど良い」とも申し上げました。収納スペースはクローゼットに限らず、何をどれくらいどのように収めるためのものかを事前に定義しておかないと、結果的に中途半端で無駄なものになってしまうのです。
具体的に例を挙げてみましょう。女性の寝室に幅60cmのクローゼットがあり、その人はパイプハンガーの幅にして180cm相当の量の洋服を持っているとします。そのうち幅60cm分をクローゼットに掛けると、幅120cm相当の洋服を掛けるスペースに思案することになります。まあ普通はワードローブを買ってそこに掛けることになるとは思いますが、もし最初から幅180cmのクローゼットがあれば困らなかったわけです。逆に、クローゼットがなければ、幅180cmのワードローブを用意すれば良く、そのほうがレイアウトがしやすいですし、分散させてしまうことなく一ヵ所にまとめて収納できて便利です。
「そうするとワードローブに出費するお金がたくさんいるじゃないか。」と思われるかもしれません。その点もご心配は無用です。なぜならワードローブを置くよりもクローゼットを作るほうがコストが高くつくからです。幅60cmのクローゼットを作るには安っぽい扉でも最低5万円は掛かります。一方、5万円出せばそれよりは立派なワードローブが買えます。地震対策の面での心配は否定できませんが、レイアウトの変更は自由です。また、あとで幅120cmのワードローブを追加で置くなら地震対策の面では同じどころか、レイアウトの自由度が増すのでむしろ安全と言えます。
ハッキリ言って、マンションでも一戸建てでも現在の日本の住宅は99%と言って良いほど収納についてマトモに考えられていません。人によって持っているモノの種類や量が異なることを踏まえても、私の考えるレベルには至っていません。
現状の日本の住宅の収納は、寸法も、扉の種類も、位置もめちゃぐちゃで、広ければ広いほど良い、あちこちにあればあるほど良いという設計思想に基づいています。
近年は「段捨離」から始まって「ときめき」に至るまで片づけブームに沸きましたが、そんなつまらないブームが起こったのも住宅建築業界の体たらくの結果によるところが大きいと私は考えています。悪いのは個々人の片づけのスキルではなく、住宅というソフトを備えていないハードなのです。
そういう現状がありますから、個人がもっと「何をどれくらいどのように収めたいのか」、「どのように暮らしたいのか」をしっかりと考えたうえで、住まいを手に入れる必要があると言えます。
収納はお金が掛かるものではなく、お金を節約するものです。残念ながら建築のプロには期待ができないので、個人がしっかりと正しい収納を理解するようにしましょう。
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