2016年にIKEA(イケア)の「MALM(マルム)チェスト」の下敷きになって子供が死亡したことがニュースになりました。その後、北米でリコールが実施されるも、中国では実施されなかったことから批判が殺到。遅れて中国でもリコールが実施されました。
結局、2017年までに北米では8人が犠牲となりましたが、幸い日本では今のところ犠牲者は出ていません。リコールも実施されず、当該製品の仕様等が改善された気配もないです。ただ、「家具は壁に固定するように」と何度もアナウンスしています。
イケアは常々、自社製品は安心安全だと言っていますから、基本的には製品そのものに問題はなく、使い手に問題があると考えているのでしょう。しかし、大人がチェストを壁に固定しないリスクを理解していたとしても、それを知らずに犠牲になるのは子供です。
そこで日本でもようやく国が動き、「子どもの安全に配慮したチェストに関するJIS」が制定されました。
※この記事は2021年1月25日時点の情報に基づいています
子どもの安全に配慮したチェストに関するJIS
2020年12月21日に公布された「子どもの安全に配慮したチェストに関するJIS」(JIS S1211)は、子供が収納家具の引出しに乗るなどして転倒する事故が絶えない現状を鑑みて、チェストの安定性やその試験方法、ならびに消費者が留意すべき事項を標準化したものです。この規格の制定により、チェストの安全性の向上および転倒リスク低減の促進などが期待できると考えられます。
主な規定内容
安定性及びその試験方法
チェストの引出しの全てを引き出し、転倒の有無を確認する。チェストの底面の一辺でも浮いたら“転倒した”と判定する。
チェストの引出しの一つを引き出し、その最先端部に質量18kg のおもりを静かに加え、転倒の有無を確認する。同様の試験を全ての引出しで実施し、いずれかの引出しの一つでもチェストの底面の一辺が浮いたら“転倒した”と判定する。
引出しをすべて2/3引き出した状態、もしくは引出しのうちひとつを2/3引き出して18kgの重りを静かに乗せたときに、底辺の一辺が浮いたら転倒したと判定するというのは、なかなか厳しい条件です。MALMチェストに限らず、安物のチェストでは転倒するものが続出するのではないかと思います。
しかしながら、子供の安全を第一に考えれば非常に妥当な基準と言えるでしょう。引出しは2/3よりも多く開かない構造にする、引出し内箱を桐などを使って軽く作る、引出し内箱に対して外箱の奥行を大きめにする、台輪を重くするなどといった対策がメーカーに求められることになると思います。
消費者が留意すべき事項
本規定では”事業者がチェストの安定性に適合した製品を供給しても転倒リスクがなくなる訳ではなく、消費者に安全に使用してもらう必要があります。”とも書かれています。基準を満たした製品であっても、目いっぱい食器を収めた引出し式の食器棚はすべての引出しを引き出せば倒れるわけですから、使用者もそういったことを理解しておく必要があります。
タンスや食器棚など引出しを備えた収納家具を購入する場合は、転倒する可能性がないか自分でチェックするのも良いと思いますが、売場でチェストが倒れてきたら危険です。本規定では事業者が”消費者に対してチェストを安全に使用してもらうための助言・対処方法を与えなければならない”とも規定しているので、遠慮なく販売員に話を聞くのが得策と思います。
なお、本規定は任意標準であって販売を規制する法規または法令ではないはずです。すなわち、今後もJIS規格を満たさない製品が流通すると考えられるので、自分の身は自分で守る覚悟が必要だと思います。
このたび公布されたJIS規格を以ってしても、チェストの転倒による事故がゼロになるわけではありません。仮にそこを目指そうと思えば、引出しは1/3程度しか引き出せなかったり、10万円以上出さないとチェストが買えないなんてことになりかねないと思います。その点で、国が一律に規制するのではなく、一定の基準を示したことは評価できると私は考えています。
あとはメーカーおよび販売店が今回の指針をどこまで真摯に受け止めるかが重要です。「説明書に書いてある通り消費者が壁に固定さえすれば問題ない」というスタンスでは困ります。
消費者としても、チェストはちょっとした弾みで倒れるものだと認識するとともに、危険な商品の販売を続けるメーカーや販売店は避けるようにすることが賢明だと思います。
コメント