桐たんすと聞いてどんなイメージを持たれているでしょうか。衣類の収納に適している、高級、イマドキそんなもの要らない…などといったところだと思います。
そういったイメージは正しくもあり、誤解とも言えます。桐たんすはピンキリで、1竿で1万円台から購入できるものもあり、残念ながらその程度のものに調湿効果はありません。一方で、高級品は湿度が高くなると桐材が膨張して内箱と外箱のすき間を埋め、逆に乾燥すると収縮してすき間を生じ通気性を確保します。防虫効果もあります。
良質の桐は汗を一滴たらすだけでパアッと紫色に変色します。また、長年使用していると褐色になっていきます。そんな良質な桐を使ったタンスは1竿で車1台が買えるくらいの値段になり、一式揃えると下手すりゃ家が1軒買えるくらいの値段になります。
褐色になった古い桐タンスを再生する(「あらい」と言います)には1竿で10万円以上かかることが一般的ですが、元の値段がそれだけ高価であればむしろ安いくらいと言えるでしょう。
さすがにそこまで高価な桐たんすを買い求める方は今となっては少ないですが、ファストファッションではなく立派なお召し物をお持ちの方は桐タンスの必要性を感じておられることと思います。それなりのモノにはやはりそれにふさわしい容れ物が必要になるわけですね。
ともあれ、桐たんすはピンキリです。高級家具販売店に行かなくても、ニトリでもそれは確認することができます。同じ桐たんすでもどこがどう違うのでしょうか。価格帯別に見て参りたいと思います。
※この記事は2024年7月8日にリライトしたものです
3万円クラス=なんちゃって桐たんす
商品名 | ハイチェスト トルテ2 80HC |
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サイズ | 幅80×奥行40×高さ118cm |
税込価格 | 29,990円 |
材質 | 天然木(桐)/繊維板 |
仕様 | ローラー式スライドレール(2~6段目) |
まずはもっとも手頃な約3万円のものからみてみましょう。「トルテ2」は桐たんすとは言うものの、桐の無垢材を使っているのは引出前板のみ。引出しの内箱は積層合板となっています。もちろん外箱はプリント合板なので、説明書きにあるように”内部の温度を一定に保つ”とか”調湿性が期待できる”わけなどありません。本当にこの値段でそれが可能なら、誰も何十万円も出して本格的な桐たんすなど買うわけがないですよね(苦笑)
引出し内箱は三方囲い
引出し内箱は箱組(はこぐみ、四方囲い)ではなく、三方囲い構造となっています。ちゃんとした引出しは内箱だけで箱状を形成したうえで手前に前板を付けた構造ですが、こちらはコの字型に前板を接着した構造です。面ではなく線で前板を繋ぐ構造のため、パカッと前板が外れてしまいます。
ローラー式スライドレール
2~6段目にはローラー式のスライドレールが付いています。軽い力でシャーッと開くレールで、殺人チェストとして有名なIKEA(イケア)の「MALM(マルム)」でも使われているものです。普段はそれで良いかもしれませんが、ひとたび地震が起これば引出しが勢い良く飛び出して手前に倒れます。
一応、こちらのタンスは倒れにくいように台輪を低くしていますが、引出しが飛び出しやすいのは上段です。あまり意味はないと思います。
6万円クラス=それらしい作りに
商品名 | 総桐製洋風チェスト 柿渋仕上げ 幅75-6段MR |
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サイズ | 幅75×奥行44×高さ105cm |
税込価格 | 59,990円 |
材質 | 天然木(桐) |
仕様 | スライドレールなし |
価格は一気に約2倍になりますが、「総桐製洋風チェスト 柿渋仕上げ」はそれなりに桐たんすらしい仕様になっています。表面は柿渋で仕上げているので桐材の呼吸を妨げず、防虫効果もそれなりに期待できるかもしれません。
引出内箱は箱組み
引出内箱は箱組みで、前板部分が二重になっています。この構造なら面で支えるので前板がパカッと外れてしまう心配は少ないです。内箱そのものも合板ではなく桐無垢でできています。
スライドレールなし
先ほどの約3万円の桐たんすはローラー式スライドレールが付いていました。一方で、こちらはスライドレールが付いていません。一般的にはスライドレールが付いていたほうが良いと誤解されがちですが、桐たんすはスライドレールが付いていないほうがマトモなのです。
なぜなら、湿度が高いときに引出内箱が膨張して外箱とのすき間を埋め、湿気の侵入を防いでくれるからです。スライドレールが付いているということは埋められないすき間が最初からあるわけで、調湿効果など期待できるはずがありません。湿度が高くてもバンバン湿気が入ってきます。
なお、スライドレールなしにするためには引出しの仕上がり寸法に精密さが求められます。板材を正確にカットさえすれば済む話ではないため、手間暇が掛かり価格も上がってしまうのです。
10万円クラス=総地板仕様ながら謎仕様
商品名 | 桐モダンチェスト 78-6 NA |
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サイズ | 幅78.4×奥行44.7×高さ121.8cm |
税込価格 | 幅78.4×奥行44.7×高さ121.8cm |
材質 | 桐無垢材 |
仕様 | 最下段のみフルスライドレール |
10万円クラスになるとさらに立派です。ただし、「桐モダンチェスト」は諸手を挙げて評価できるとは言えない微妙な仕様のところもあります。
最下段のみフルスライドレール
まずネガティブな点を先に挙げると、先ほど申し上げたことが台無しになってしまうフルスライドレールを採用しているところです。最下段のもっとも深い引出しなので致し方ないところもあるのですが、妥協した感が滲み出ています。
総地板仕様で衣類にやさしい
一方で評価できるのは総地板(そうじいた)仕様である点です。総地板仕様とは先ほどの写真のように、引出し全段の上下に板が渡してある構造のことを言います。反対に、安物は外箱が天板、側板、台輪(地板)だけで、真ん中は空洞だったり、引出しの下に桟が渡してあったりするだけです。
総地板構造なら外箱が頑丈になり歪みが生じないため、引出しをスムーズに開閉しやすくなります。また、引出しに収めた衣類が上段の引出しの底板に擦れないので、衣類を傷める心配がありません。さらに、各段が独立しているため、湿気やカビ、虫などの侵入を防ぎやすくなります。
反対にデメリットはコストが上がること。誰もこんなところまで見ていないので、メーカーとしてはコストを抑えたいと思ってしまうわけです。
アリ組みは雰囲気だけ
なお、こちらの引出しはロッキング組(アリ組み)を採用しています。アリがスクラムを組んでいるように見える接合方法で高級感があります。それに対して先の2竿の桐たんすはダボ組みを採用しているわけですが、実は説明に書かれているような耐久性の違いはほとんどないです。
昔なら職人がノミで削って作りましたけど、今は機械がやってくれます。機械がジグザクにカットした板材をパートのおばちゃんが組み立てるだけですよ。
ちなみに、ニトリの桐モダンチェストは大川で作られたプロパー品(「桐詞」)です。外箱もすべて桐の無垢板で作られた桐たんすを「総桐たんす」と呼びますが、10万円以下でも購入可能です(例:「総桐チェスト6段8杯 商品番号73168」)。
側板などすべてが桐でできていれば、湿度が上昇したときに全ての板材が膨張してすき間を塞いで湿気をシャットアウトしてくれます。逆に言うと、膨張しない合板を外箱に使った桐たんすに調湿効果など求められるはずがありません。
なお、これ以上のクラスとなると、見た目で違いが分からなくなっていきます。特上の桐材が使われ、職人のレベルが上がっていく感じです。強いて違いを見分ける方法を挙げるならば、家具屋の店員がおもむろに白手袋を取り出し、絶対に素手で触らないということです。素手で触ったが最後、手の跡が残るのです(だから取っ手の金具が必要になるとも言えます)。
それにしてもこうやって見ていくと、一昔前に比べるとタンスはどんどん安くなっているような気がしますね。昔の3万円クラスと言えば、引出しの前板は合板やラバーウッドが主流でしたし、フルスライドレールが付いたものなんてなかったですから。また、家具屋に行っても普通に100万円以上するものを見ることができましたが、最近はめっきり見なくなりました。
いやはや、日本の伝統的なタンス屋は本当に大変ですね。何とか頑張って欲しいものです。
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